2025年7月、アフリカ南部の小国・レソトが経済危機に直面しています。
原因は、アメリカが一方的に関税優遇措置(AGOA)を終了し、同国からの衣料品輸入に最大50%の関税を課したこと。
「それって大きな話なの?」
と思う方もいるかもしれません。実際、アメリカからレソトへの輸出額は、わずか年間約2.8百万ドルに過ぎません。
一方で、アメリカがレソトから輸入している金額は240百万ドル以上。
つまり、アメリカにとってレソトとの貿易はごくわずかな数字に過ぎず、政策判断の“優先順位”は非常に低いのです。
📦 小国の「主要輸出先」を突然失うということ
レソトにとっては、この輸出が命綱。
工場で働く人の雇用、家計の収入、国家の外貨収入――すべてがこの輸出産業に依存してきました。
国内総生産(GDP)の約2割を繊維業が占めるという構造は、もはや産業政策というより“国家の心臓部”そのものです。
しかし、アメリカ政府は2024年末をもってAGOAの適用を終了。
猶予期間もなし。交渉の場もなく。たった一枚の通告でレソトに50%関税が課せられるようになりました。
🧭 小さな声は、世界に届かないのか?
アメリカ政府の立場からすれば「戦略的な経済政策」にすぎないでしょう。
しかし、レソトのような小国からすれば、まさに「天地がひっくり返るような打撃」です。
もちろん、AGOAの基準に適合していなかったという理由があるにせよ、次のような対処法は十分にあり得たのではないでしょうか。
- 据え置き期間の設定
猶予期間を1年間でも設けていれば、企業は他国への販路転換や生産調整が可能だったはずです。 - 小国・LDC向け例外措置
WTOでも「後発開発途上国(LDC)」への特別扱いが容認されています。アメリカの大義にも合致する政策だったはずです。 - 対話の場の確保
せめて、交渉の打診に対して「返答する」誠意があっても良かったのではないでしょうか。
🌍 グローバル経済の“端っこ”を見つめる目
この出来事を通じて、私たちは次のような問いを考える必要があります。
- 「貿易って、誰のための仕組みなのか?」
- 「経済政策が、どれだけ“声なき国”に影響を与えるのか?」
- 「そして、そうした現実を私たちはどれほど学び、伝えられているのか?」
教育の現場にいる私たちこそ、このような“見えにくい出来事”に光をあて、子どもたちに届けていく役割があると考えています。
「レソト? 聞いたことないな」
そう思った方は、ぜひこの機会に、世界のすき間に置き去りにされている声に耳を傾けてみてください。
📘 レソトってどんな国?
正式国名 | レソト王国(Kingdom of Lesotho) |
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位置 | 南アフリカ共和国に囲まれた内陸国(飛び地国家) |
人口 | 約230万人(2025年推定) |
地形 | 全土が海抜1,400m以上の高地(「天空の王国」とも) |
主要産業 | 繊維産業、農業、南アからの出稼ぎ送金 |
公用語 | セソト語、英語 |
独立 | 1966年(イギリスから独立) |
アフリカの中でも独特な地理と歴史をもつ国・レソト。
今後も世界の中の“片隅”で起きていることに目を向けていきたいと思います。
📝 補足情報
- AGOA(African Growth and Opportunity Act):アフリカ諸国が米国市場に関税なしで輸出できる制度。2000年制定。
- LDC(後発開発途上国):国際連合による分類。最も貧困かつ脆弱な経済構造を持つ国々。
📢 次回予告(仮)
次回のブログでは、「レソトのような小国は、どうすれば“大国の論理”から自らを守れるのか?」というテーマを掘り下げてみようと思います。