ノーベル賞が発表されると、「このニュースは入試に出るのだろうか」と気になる受験生や保護者の方も多いでしょう。
結論からいえば、ノーベル賞の受賞者や研究内容が、実際の入試問題として出題された例はあります。ただし、受賞者名を覚えるだけの問題とは限りません。研究に関係する科学技術から、実験、資料の読み取り、化学反応の考察へと問題が広がることもあります。
今回は、学校が公開した入試資料などを中心に、具体的な出題例を確認します。「本当に出題されたこと」と「ノーベル賞が出題の原因になったかどうか」は区別しながら見ていきましょう。
1.2013年度・桜蔭中学校――山中伸弥さんのiPS細胞
2012年のノーベル生理学・医学賞は、山中伸弥さんとジョン・ガードンさんに贈られました。細胞が持つ性質や、細胞の状態を変える研究に関わる成果です。山中さんの研究でよく知られているのが「iPS細胞」です。
翌2013年度の桜蔭中学校の理科では、時事問題の小問集合にiPS細胞が登場したと、同校入試の分析資料で報告されています。そこで指摘されているのは、科学用語を正確に理解し、表記できるかという点です。
出題から読み取れること:最先端の研究について専門家と同じ知識が必要なわけではありません。しかし、その年に大きなニュースとなった科学用語や、何に関する研究なのかを知っておくことが役立つ場合があります。
※この事例は学校発表の問題冊子ではなく、入試分析記事によって確認したものです。
2.2021年度・本郷中学校――吉野彰さんとリチウムイオン電池
2019年のノーベル化学賞は、吉野彰さんら3人によるリチウムイオン電池の開発に関する功績に贈られました。
本郷中学校が公開している2021年度第1回入試の理科解説では、この受賞研究を題材にした大問が確認できます。出題された内容を整理すると、次のようになります。
- 2019年のノーベル化学賞を受賞した日本人研究者は誰か。
- その研究が、どのような技術に関するものか。
- リチウムイオン電池には、どのような事故の危険があるか。
- 小型で高い電圧を得られる特徴などが、どのような用途に生かされているか。
学校公開の解説には、吉野さんの名前と受賞内容だけでなく、発火事故や電気自動車への利用についても説明があります。
ここが重要です。受賞者の名前を尋ねるところから始まり、私たちの生活に関係する電池の性質や利用へと話題が発展しているのです。
スマートフォン、ノートパソコン、電気自動車などを思い浮かべながら読むと、ニュースと理科の学習を結びつけやすくなります。
3.2024年度・中央大学附属中学校――真鍋淑郎さんと二酸化炭素
2021年のノーベル物理学賞を受賞した真鍋淑郎さんは、大気中の二酸化炭素の増加が地球の気温にどのような影響を与えるかを研究してきた科学者です。
中央大学附属中学校の2024年度第2回入試では、理科の問題に真鍋さんの受賞が登場しました。まず、受賞した賞の分野を選ばせる設問があります。
そして、その後の設問は二酸化炭素そのものの性質へと進みます。身近な場面で二酸化炭素が発生するかを判断させたり、石灰水を使った実験結果から、呼吸に含まれる二酸化炭素の量を考えさせたりしています。
つまり、世界的な気候研究が問題の入り口となり、気体の性質、化学変化、呼吸、実験データの計算といった理科の学習内容へつながっています。
しかも、この入試は受賞の翌年ではなく、3年後の2024年度です。「受賞した直後の入試だけを警戒すればよい」という考え方では十分ではないこともわかります。
4.2021年度・神戸大学――大学入試では電極反応式まで
同じ2019年のノーベル化学賞は、大学入試でも題材になっています。
神戸大学工学部応用化学科の2021年度「志」特別選抜では、化学演習の冒頭に吉野彰さんらの受賞とリチウムイオン電池の開発が紹介されています。
そのうえで、リチウムイオン電池以外の蓄電池の電極反応式、蓄電池と燃料電池の違い、ダニエル電池を繰り返し充電して使ううえでの課題などを説明させています。
ここでは、研究者の名前を知っているだけでは答えられません。高校化学で学ぶ酸化・還元や電池のしくみを理解し、それを利用して理由を説明する力が必要です。
本郷中学校と神戸大学で扱われたのは、どちらも吉野さんらの受賞研究です。それでも、出題の深さは受験する段階によって大きく違います。ニュースは同じでも、問われる学力は異なるのです。
5.では、三重県の高校入試では何が大切なのか
ここまでに紹介した、出題内容を具体的に確認できた事例は、中学入試と大学入試が中心です。今回確認した資料だけで、三重県の県立高校入試で特定のノーベル賞受賞研究が直接出題されたとは断定できません。
では、三重県の高校入試で重視されるのはどのような力でしょうか。
三重県教育委員会が公表した令和8年度(2026年度)後期選抜・理科の出題意図では、基礎的な知識や観察・実験の技能に加えて、実験結果を分析して解釈する力、理科の原理や法則を日常生活や社会と結びつけて考える力が重視されています。
これは、ノーベル賞の研究に関する文章を初めて読んだ場合にも、役立つ考え方です。
- 用語:知っている理科の言葉と、新しく登場した言葉を区別する。
- 実験:何を変え、何を同じ条件にして比べたのかを確認する。
- 結果:図やグラフから、実際に読み取れることを整理する。
- 考察:得られた結果から、なぜそう考えられるのかを説明する。
受賞者の名前を覚えることよりも、まず学校の理科を正確に理解すること。高校入試に向けた学習では、その順番を大切にしたいところです。
6.ノーベル賞は「翌年の入試」に出るとは限らない
今回確認した事例を、受賞年と入試年度で比較してみましょう。
- 2012年受賞 → 2013年度入試:桜蔭中学校でiPS細胞。
- 2019年受賞 → 2021年度入試:本郷中学校でリチウムイオン電池。
- 2019年受賞 → 2021年度入試:神戸大学で蓄電池の化学。
- 2021年受賞 → 2024年度入試:中央大学附属中学校で真鍋さんの研究と二酸化炭素。
受賞後、異なる年度の入試で扱われたことがわかります。ただし、これは出題例を集めたものであって、「何年後が最も出やすい」といった確率を示す統計ではありません。
また、ノーベル賞に関連する技術が入試に登場したからといって、必ずしも授賞が作問の直接の原因になったとは限りません。電池や二酸化炭素は、もともと理科で学ぶ重要な題材でもあります。一方、問題文に受賞の事実が明記されているものについては、ノーベル賞そのものが題材として取り上げられたと確認できます。
7.2026年のノーベル賞を、これからの学習にどう生かすか
2026年の自然科学3賞については、第1回の記事で、小・中学校の理科とのつながりを紹介しました。
物理学賞のニュートリノ観測なら「目に見えないものを、どのような証拠から調べるのか」。化学賞の研究なら「分子の立体的な形はなぜ大切なのか」。生理学・医学賞の光遺伝学なら「刺激を受けた情報は、神経を通してどのように伝わるのか」。
いずれも、最先端の研究内容をすべて理解する必要はありません。まずは学校で学習する内容との接点を一つ見つけることが大切です。
ニュースを読んだら、次の三つを確かめてみましょう。
- 何を発見・開発した研究なのか、一文で説明できるか。
- 学校で習ったどの単元と関係しているか。
- 観測結果や実験の説明があれば、「事実」と「考察」を分けて読めるか。
そして、もし入試問題に似た題材が登場しても、慌てずに問題文の条件を読み、習った知識から考え始めましょう。
もちろん、2026年の受賞研究が令和9年度入試に出題されると決まったわけではありません。入試対策の中心は、あくまでも教科書内容の理解と過去問演習です。
まとめ――ニュースの暗記から、知識を使う学習へ
ノーベル賞に関する研究は、実際に入試問題で取り上げられています。ただし、求められるのは受賞者の名前を覚える力だけではありません。研究に関連する技術の利用、実験の読み取り、科学的な原理を使った説明など、さまざまな形があります。
千尋進学塾では、学校で学ぶ基礎を大切にしながら、学んだ知識を新しい場面で使えるようになることを重視しています。ニュースを「覚えなければならない情報」で終わらせず、「学校で勉強したことと、どこがつながるだろう」という問いに変えてみてください。
まだ第1回をお読みでない方は、「2026年ノーベル賞をやさしく解説|中学理科とのつながり」もあわせてご覧ください。
次回からは、2026年の物理学賞・化学賞・生理学・医学賞について、高校の学習内容との接点をさらに詳しく取り上げます。
参考資料・出題内容の確認先
- 桜蔭中学校2013年度理科・入試分析(中学受験ドクター)
- 本郷中学校・第1回入試問題理科解説(学校公開PDF)
- 中央大学附属中学校・2024年度第2回理科入試問題(学校公開PDF)
- 神戸大学工学部・2021年度「志」特別選抜 化学演習(大学公開PDF)
- 三重県教育委員会・令和8年度県立高校入試 後期選抜の出題意図(公式PDF)
- 三重県教育委員会・令和8年度県立高校入試の問題と採点基準
※過去問の内容は学習上のポイントを要約して紹介しています。実際の設問全文や図表は転載していません。受賞内容と入試の出題内容との関連を論じるものであり、授賞が作問に及ぼした因果関係や今後の出題を断定するものではありません。




