毎年10月に発表されるノーベル賞。世界の優れた研究をたたえるニュースですが、小学生や中学生の勉強とも無関係ではありません。
今年、三重県でもノーベル賞と学びを結びつける出来事がありました。まずは桑名・四日市にゆかりのある研究者の話から始めましょう。
桑名市出身の研究者が、四日市高校で語ったこと
2026年10月20日、三重県立四日市高校の卒業生である坂口教子(さかぐち・のりこ)さんが、同校の生徒に講演しました。教子さんは桑名市出身で、長年、免疫の研究に携わってきた研究者です。
夫の坂口志文(さかぐち・しもん)さんは、体の免疫が過剰に働かないよう調節する「制御性T細胞」などの研究により、2025年のノーベル生理学・医学賞を受賞しています。今回の講演は、2026年の受賞者による講演ではなく、前年の受賞研究を長年ともに進めてきた研究者のお話です。
毎日新聞の報道によると、教子さんは、理解を深めるには時間が必要であり、思いどおりに進まなくても前向きに研究を続けることの大切さを高校生に伝えました。
勉強でも、一度説明を聞くだけでは理解できないことがあります。知識を覚え、問題を解き、間違えた理由を考える。その繰り返しによって、少しずつ自分の力になっていきます。
世界的な研究も、教科書の勉強も、最初の一歩は「なぜだろう」と問いを持つことなのかもしれません。
ノーベル賞は入試にも関係する?
ノーベル賞の話題が、中学入試や高校入試に取り上げられることはあります。受賞者の名前や研究内容を問うこともあれば、関連する科学技術を使って、実験や資料の読み取りを考えさせることもあります。
例えば、2019年のノーベル化学賞は、吉野彰さんらによるリチウムイオン電池の開発に関するものでした。電池は、理科で学ぶ電気や化学変化に関係する身近な技術です。
ただし、「今年の受賞研究が、来春の入試に必ず出る」わけではありません。入試で役立つのは、ニュースで知ったテーマを、学校で学んだ基礎知識と結びつけて考える姿勢です。実際の過去問については、このシリーズの第2回で詳しく扱います。
2026年ノーベル物理学賞――南極の氷で宇宙を調べる
2026年のノーベル物理学賞は、フランシス・ハルツェンさんに贈られることが決まりました。宇宙から届く「ニュートリノ」という粒子の観測に大きく貢献した研究者です。
ニュートリノは、とても小さく、ふつうの物質とほとんど反応しません。私たちの体や地球を通り抜けるものもたくさんあります。そんな粒子を、どうやって調べるのでしょうか。
研究者たちは、南極の深い氷の中にたくさんの光の検出器を設置しました。この観測施設が「アイスキューブ(IceCube)」です。ニュートリノがまれに氷の中の物質と反応すると、その結果生じる別の粒子が光を発することがあります。その光を手がかりに、宇宙から来たニュートリノを調べます。
学校の理科とのつながり
中学1年生では、光の直進・反射・屈折などを学びます。また中学3年生では、原子の構造や放射線にも触れます。ニュートリノの詳しい性質は高校以降の発展的な内容ですが、目に見えないものを、観測できる変化から調べるという考え方は、理科の実験にも通じます。
考えてみよう:目に見えない空気の存在を確かめるには、どんな実験ができるでしょうか。
2026年ノーベル化学賞――右手と左手のような分子
2026年のノーベル化学賞は、アンリ・B・カガンさんと硤合憲三(そあい・けんそう)さんに贈られることが決まりました。分子の「右手型」「左手型」に関わる化学反応の研究です。
自分の右手と左手を見てください。形はよく似ていますが、同じ向きに重ねても、ぴったり一致しません。分子にも、このような鏡に映した関係にある二つの形が存在する場合があります。
カガンさんと硤合さんの研究は、化学反応でどちらの形の分子が多くできるか、そのしくみを理解するうえで重要な成果です。硤合さんは、反応でできた物質がさらに同じ反応を進め、一方の形を増やしていく「不斉自己触媒反応」を発見しました。
学校の理科とのつながり
中学2年生では、物質が原子からできていることや、原子が結びついて分子になることを学びます。高校では分子の立体的な形も詳しく学習します。
小・中学生の段階では、まず「同じ種類の原子からできていても、並び方や立体的な形が重要になることがある」と知っておきましょう。
考えてみよう:右手用の手袋を左手にはめようとすると、なぜ使いにくいのでしょうか。分子の形の違いを考える入口になります。
2026年ノーベル生理学・医学賞――光で神経細胞を調べる
2026年のノーベル生理学・医学賞は、カール・ダイセロスさん、ペーター・ヘーゲマンさん、ゲオルク・ナーゲルさんに贈られることが決まりました。光に反応するタンパク質と「光遺伝学」に関する研究です。
私たちの脳や神経には、情報を伝える神経細胞があります。では、「この神経細胞が働くと、どんな反応が起こるのか」をどうやって調べるのでしょうか。
光遺伝学では、光に反応するタンパク質を特定の細胞に持たせ、光を当てることで、その細胞の活動を変化させます。神経細胞の役割を調べるための強力な手段になりました。
学校の理科とのつながり
中学2年生では、目や耳などの感覚器官、神経、筋肉の働きを学習します。例えば、熱いものに触れると、考えるより先に手を引っ込めることがあります。こうした刺激と反応のしくみは、神経の働きを知る第一歩です。
考えてみよう:目で見たものに反応して手を動かす場合、体のどこが情報を受け取り、どこが命令を伝えるのでしょうか。
3つの研究に共通する「科学の考え方」
南極の氷で粒子を調べる物理学。鏡に映したような分子の形を研究する化学。光で神経細胞の働きを調べる生命科学。一見、まったく違う研究に見えます。
しかし、共通していることがあります。それは、疑問を持ち、工夫して観察や実験を行い、得られた証拠から考えるということです。
中学入試や高校入試でも、初めて見る資料や実験結果から考察する問題が出題されます。研究者と同じ研究ができなくても、「なぜそう言えるのか」を考える習慣は、今日の授業から身につけられます。
ノーベル賞のニュースを、毎日の勉強につなげよう
ニュースを見て、受賞者の名前だけ覚えるのも一つの方法です。しかし、それだけで終わらせるのは少しもったいないことです。
「学校で習った何に関係するだろう」「どうやって確かめたのだろう」「結果から、どこまでわかるのだろう」と考えてみてください。
坂口教子さんが四日市高校の後輩たちに伝えたように、研究も学習も、一度でうまくいくことばかりではありません。知識を時間をかけて理解し、自分の頭で考え続けることが、次の発見につながっていきます。
千尋進学塾では、学校で学ぶ基本を大切にしながら、その知識が社会や科学の世界でどのようにつながっているかにも目を向けていきたいと考えています。
次回は、「ノーベル賞は本当に入試に出るのか」をテーマに、過去の出題例を詳しく見ていきます。
参考資料
- 三重県立四日市高等学校|SSH活動報告(2026年10月20日の講演会)
- 毎日新聞「ノーベル賞坂口志文さんの妻・教子さんが講演 研究の秘訣を伝授」(2026年10月22日)
- YOUよっかいち|坂口教子さんの講演・交流会に関する報道(2026年10月20日)
- 米国国立科学財団|2026年ノーベル物理学賞・IceCube
- スウェーデン王立科学アカデミー|2026年ノーベル化学賞
- 米国国立科学財団|2026年ノーベル生理学・医学賞
※2026年の受賞研究が、令和9年度の中学・高校入試に出題されることを示すものではありません。研究内容は小・中学生に伝わるよう、学習範囲との関係を中心に説明しています。




